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地縛記憶2: 京都、地脈の乱れ(最終回) [ミステリー]

「そういう怨霊説には、俺は乗りたくないんだが、今回のことでは、もしかしたらって、気にもなるよな」

 悩ましげな顔で毛利が言った。

「警部、加害者の吉本敦子と辰夫、それに高木洋介がいずれも石田三成の縁者で、被害者の福本洋平と沢口絵里香がおねさんの縁者。 つまり、関ヶ原の怨念がめぐりめぐって今回の事件を引き起こした、ってことになるんですね」

 下座から、香取が言った。

「まあ、そうだな。 辰夫は、その両方の血を引いてるけどな」

 毛利の顔は、さらに悩ましげになった。

「先輩、先輩はよっぽど、ロマンがきらいな人なんですね。 四百年前の怨念が引き起こす事件、おっとろしいようなストーリーですけど……私は、なんかロマンを感じますね、ちょっと不謹慎かもしれませんが」

「へえー、唐沢さんって、ロマンチストなんですね。 実は、私もそうなんです」

 香取が言った。

「ああ、それで、お前、神社仏閣めぐりなんかに、のめりこんでたんか?」

 桜井が訊いた。

「はい、長い歴史を刻んだ古刹を訪ね歩く。 これって、最高にロマンチックだと思います」

「ふーん、お寺にロマンがな、まっ、いいやろ、それも確かにロマンやな、アッハッハッハ」

 桜井が笑うと、香取は複雑な表情になった。

 佑太は、桜井の笑い声を聞きながら、ふと、神仙苑で毛利から聞かされた、吉本辰夫の最後を思い出していた。

〈吉本辰夫は、あの法成橋の上で、雷雨の中、傘もささず、立っていた。 雷が落ちるかもしれないのは、想像できただろうに。 もしかして、雷が落ちるのを……黄金の龍が降りて来るのを、待っていたのか? あの橋を渡る時、何か願いを念じると、池に棲む善女龍王にそれが通じて、願いが叶う……そんな言い伝えがあると、杏子が言ってたけど……辰夫は、龍に向かって、何か願いをしたんだろうか? 最後の時に、龍の姿を見たんだろうか?
 辰夫は、自分の中で、福本家と吉本家という関ヶ原以来の仇敵の血が混じっていることを知っていたのか? いや、そうは思えない。 辰夫は、事件の中心人物だったが、ほんとは、地脈の乱れの犠牲者じゃないのか。 いずれにしても、これで、京の地脈の乱れは治まったことになる。 そして、それは、斎王の力によるもの。 これで、伊勢で、老女に頼まれた僕らの仕事も終わったようだな〉

 佑太の考えがそこまで及んだ時、袖を引くものがいる。 見ると、杏子である。


「あれは、鴨川からでしょうか?」

「あれって?」

「ほらっ、聞こえるじゃないですか、さらさらと、心地の良い音が」

 杏子が、開け放たれた座敷の縁先の方を見ながら、佑太の耳元で小声で囁く。 座敷は、酔った桜井と口達者の唐沢が主役となって盛り上がり、踊りでも始まりそうな様子である。 座敷の外へ関心を向けているのは佑太と杏子の二人だけだ。

 佑太は、耳を澄ませた。すると、川面を渡る四月の風に乗って、せせらぎの音が聞こえてくる。それは、さらさら、さらさらと涼やかだった。

 佑太と杏子には、それが、古都の地脈の乱れが鎮まり、怨念に彩られる鴨川の流れに、ようやく安らぎが戻ったことを喜ぶ、水の精の笑い声のように思えた。
                                        了


 最初から読まれたい方は、こちらからどうぞ ⇒ 第1回 http://shiratoriksecretroom.blog.so-net.ne.jp/2013-08-11-1

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地縛記憶2: 京都、地脈の乱れ(第93回) [ミステリー]

 すると、宴席の下座にいた香取が、手を挙げた。

「はい。私もそう思います。 天竜寺の北門から出て、突然、お二人とも姿を消されて……野宮神社でも、私が駆けつけた時は幾ら探しても姿が見えなかったのに、雨の中、突然眼の前に姿を現されて。 あの時は、どうしてか、判らなかったのですが、課長が今おっしゃったので、私も勘が閃いて、きっと超能力だ、そう思ったんです」

「なんや、香取、お前も勘かいな。 でもな、先生の勘とちごうて、お前の勘はあてにはならへん。 こないだも、『私の勘では、マスターは、三十代か四十代の男に間違いない』 って、言ってたやないか。 そやから、お前の勘は信用ならへん」

 桜井が決めつけるように言うと、香取は頬を膨らませた。

「おい、香取、お前、そんな顔するから、男がでけへんのやで。 唐沢さんの奥さんに頼んで、一度、男口説く方法でも、教えてもらえ、ええな。 ワッハッハハ」

「課長、それは、セクハラです。 それに、唐沢さんの奥さんにも失礼ですよ、ねえ」

 香取は美香に同意を求めたが、美香は、大きな身体をすくめて、顔を赤くしただけである。

「いやあ、うちの美香は、凄腕ですよ……実はね……痛っ」
 
 唐沢が、自分たちのなれ初めを披露しようとすると、美香の太い指が、彼の太ももをつねりあげていた。

 唐沢と美香が結婚することになったのは、飲み会のあと、唐沢が酔った美香から無理やりホテルへ連れ込まれたのが、きっかけだったのである。

「ところで、あの六条河原で吉本敦子が見たという三人の武将の姿。 あれって、六条河原に巣くっている怨霊だと、思うんですよ、私は。 ところが、ほんとに見たのは吉本敦子だけ。 なのに、他の四人は、マスター、つまり吉本辰夫に指示されて、見たように証言した。 吉本敦子が怨霊を見たのは納得するとしても、なぜ辰夫がそれを予知するようなことを指示したのか? そこが……私には……説明できないんですよね、うーん」

 太ももをさすりながら、唐沢が言った。

「唐沢さん、敦子と辰夫は姉弟ですよね。 そして、ご先祖は石田三成の家臣。 だから、怨霊が石田三成だったとしたら、それで説明がつきませんか」

 佑太は言った。

「なるほど……石田三成の怨霊は、彼の家臣の子孫の二人だからこそ見えたし……存在も知り得た、そういうことですか。 なんか、安藤先生が説明されると、素直に腑に落ちますね」

 唐沢は、納得したのか、頷いていた。

「そう言えば、辰夫の部屋には、黒魔術だなんだのと、変な本がぎっしりと積まれてましたよ。 その中身をうちで調べてみたんですが、ありましたよ、三匹の猫を生贄に悪霊を呼び出す儀式が。 辰夫は、そこに赤でチェックを入れてました。 だから、あの三匹の猫の死体は辰夫にとっては意味があったんですよ」

 毛利が言った。

「へえー、それじゃあ、その儀式が怨霊を呼び寄せたってことになりますよね、先輩」

 唐沢は、さらに納得した顔になった。
                   続く⇒ http://shiratoriksecretroom.blog.so-net.ne.jp/2013-11-17-1
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地縛記憶2: 京都、地脈の乱れ(第92回) [ミステリー]

「えっ、私の執念ですか。 そう言われると、ちょっと照れちゃうな。 でも、実はそうなんです、なあーんちゃって、アッハッハハハ」

 唐沢は、そう言って頭をかいた。

「おい、唐沢、調子に乗んなよ。 新婚で身重の奥さん、ほっぽらかして、新幹線に乗り込んで、東京まで行ったんだからな。 でも、奥さん、こいつの、そんなところが、好きなんだそうですね」

 毛利は唐沢の妻、美香に向かって言った。

「えっ、この人、そんなことまで、ぺらぺらと」

 美香は、隣の唐沢を睨んだ。

「美香さん、いいじゃありませんか、ほんとのことなんでしょう。 それに、唐沢さんみたいな方がいらっしゃるから、この国の治安は守られているんだと思いますよ」

 杏子がそう言うと、美香は顔を赤くした。 夫が褒められたのが嬉しいのか、その表情は緩んでいた。

「そうでんがな。 唐沢さんの奥さん、唐沢はんには、ほんまに御世話になりました。 ええデカ魂、持ってはりまっせ、お宅の御主人は。 ほんま、ええデカや、ええデカや」

 桜井が念を押すように言った。

「ところで、マスターの吉本辰夫ですけど、福本洋平との間に、何か、確執があったらしいですね」

 佑太が言った。

「ええ、それは、吉本辰夫の母親から訊き出したことなんですが、辰夫は小さいころから何度も、福本一郎に連れられて福本邸を訪れていたそうなんですよ。 その時、福本洋平が吉本辰夫の母親のことを、親父をたらしこんだひどい女だ、財産が目当てに違いないだのと、辰夫の前で口汚なくののしっていたそうなんです。 それに、同じ世代の洋平の息子や娘も、辰夫には冷たかったようですよ。 福本一郎がいない場所では、辰夫は彼らに執拗にいびられてたそうですから。 それで恨みをつのらせていたのかもしれません」

 毛利は、福本洋平の家族と辰夫の確執について語った。

「そうでしたか。 そういう背景があったんですね」

 佑太は、頷きながら言った。

「私は、それが、沢口絵里香殺害にもつながったんだと思っています」

毛利は、自信ありげに言った。

「安藤先生、先生は、神仙苑で、吉本辰夫の死を聞いて、なんで彼がマスターだと思われたんですか? 私は、それが不思議だったんですよ」

 唐沢が、佑太に疑問をぶつけた。

「えっ、それは……言ったじゃないですか、あの時、ただ勘が閃いただけですよ」

 佑太は、そう答えるしかなかった。

「そうでっか、勘ですか? 先生、もしかして……超能力でも持ってはるんやないですか?」

 今度は、桜井が、勘繰るような言い方をした。
                 
              続く ⇒ http://shiratoriksecretroom.blog.so-net.ne.jp/2013-11-16-1
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地縛記憶2: 京都、地脈の乱れ(第91回) [ミステリー]

終章

 「さあ、どうぞ。いやいや、安藤先生、先生のお蔭で、ほんま、助かりましたわ。 そやけど、あの高校生の吉本辰夫がマスターやったとは、驚き桃の木でしたな」

 桜井課長が佑太に酌をしながら言う。 明日は佑太と杏子が東京へ帰るとのことで、捜査への協力のお礼も兼ねて桜井が一席設けることになったのである。 

 座敷には、桜井の他、佑太夫婦と唐沢夫婦、毛利警部と佑太たちを天竜寺へ案内してくれた香取巡査部長の顔が見える。

 神仙苑で佑太に依頼を受けて動いた毛利警部は、吉本家の家宅捜索の結果、数々の重大な証拠物件を見つけることができた。

 まず、吉本辰夫のゲーム機の使用記録の探索の結果、オンラインソーシャルゲームの中で、彼のつくり上げた組織の存在が明らかになり、ケータイの通信記録も含めると、吉本辰夫が高木洋介、山下昇らを操っていたマスターであることが明白になった。

 また、資金源も明らかになった。 辰夫は自分名義の銀行預金口座を持っていた。 それは、父である福本一郎が辰夫のためにつくったものである。 辰夫は、その口座の預金を元手にオンラインの株式投資を行い、数億の資金が辰夫名義の口座に残っていた。

 さらに、福本洋平殺しをマスターに依頼したのは、福本洋平の義兄の横山仁である証拠が見つかった。 つまり、福本家の跡取りである福本洋平の殺害を思い立ったのは義兄の横山仁だったのである。

 彼は、知り合いのオンラインゲームの愛好者からの情報で、マスターの秘密サイトの存在を知り、福本洋平殺害をオンラインソーシャルゲームのマスターである辰夫に依頼し、その依頼を受けた辰夫がゲーム上の部下である高木洋介と山下昇に福本洋平殺しを実行させたという構図が浮かび上がった。

 ところが、マスターである吉本辰夫から山下昇への沢口絵里香殺害の指令は下りていたが、沢口絵里香殺害の依頼を吉本辰夫が誰かから受けたという記録は見当たらなかったのである。

 さらにマスターからの殺害の司令はあったにもかかわらず、殺害が実行されなかった件も見つかった。 それは、福本洋平の長女と長男の殺害指令だった。 これは別な人物へ司令が下りていたが、実行されなかった。

 指令を受けたのは、京都市内のある医療法人に勤める三十歳代の男だった。 その男に事情聴取を行ったところ、指令は受けたが、怖くて実行できなかったとのことで、そのため、この男には脅しのメールがマスターから届き、その中身は、指令実行の期限が四月中で、それが過ぎても指令が実行されていない場合、男の命の保証はないとの内容だったことも判った。 この福本洋平の長女と長男の殺害に関しても、マスターへの誰かからの依頼があったとの記録は見つからなかった。

 事件は、これらの証拠から、ほぼ一連の事件の全容が判明したことになる。 

 福本洋平殺害を依頼した横山仁も逮捕され、容疑を認めた。 肝腎の黒幕であるマスター、吉本辰夫を逮捕する前に死なせてしまったのが唯一悔やまれる点であったが、落雷事故とのことで致し方なし、これも天罰かと、捜査本部の幹部は語っていたとのことである。

「横山仁の線は、毛利の読みが当たってたようですが、私の方は全くの大はずれでした。 上司としては面目丸つぶれですな。 エッヘッヘッへ」

 桜井は自嘲気味に言ったが、事件の解決をみたためか、表情は満足げである。

「いえ、私の読みと言っても、ちょっとだけ当たっただけで、ヤマを……いや、事件を解決に持っていけたのは、大半は安藤先生のおかげでした。 プロファイリングと神仙苑で閃かれた勘、さえてましたもんね。 それに、高木洋介の身柄の確保にしても、唐沢の執念がなけりゃあ、海外へ逃がしていたかもしれませんしね」

 毛利が、唐沢を指しながら、渋い顔で言った。
                                             
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地縛記憶2: 京都、地脈の乱れ(第90回) [ミステリー]

「赤く光る男の眼……それは、怨霊の眼か……」

 唐沢がつぶやいた。

〈赤く光る眼?〉

 佑太は、小柴垣の小路で、もやの中に見た赤く光るものを思い出していた。

「ということは、落雷にあって、池に落ちて亡くなった……ということですか?」

 佑太は訊いた。

「ええ、そうです。 池から引き揚げたときには、息はありませんでした。 ですから、他殺でも、自殺でもありません、明らかに事故死ですね」

 毛利は断定するように答えた。

「他に、何か変わったことはありませんでしたか?」

 黙って聞いていた杏子が訊ねた。

「変わったことですか……ああ、そう言えば、目撃者の中に、おかしなことをいう人がいましたね」

「おかしなこと?」

「ええ、その人が言うには……落雷の音がして……人が池に飛び込んだような音がした直後に、池の真ん中あたりの水が盛り上がってきて、恐竜のようなものが見えた。 それも、黄金色をした恐竜のようやったが、もしかしたら池に棲む善女龍王様じゃなかったのかと、そう言うてましたね。 その人は、吉本が池に落ちるところは見ていないのですが。 雷がなるし、雨はじゃあじゃあですから、そんな時はいろんなもんが見えるのかもしれないですね、ハッハッハハ」

 毛利の笑い声を聴きながら、杏子と佑太は、斎王の力で京都の地脈の乱れが治まったことを確信していた。

「安藤先生、先生は、何か気になることでも? ちょうどタイミング測ったようにここに来られたようですが」

 毛利は、自分の話を聞いて、佑太と杏子の表情が変わったのに気づいていた。

「毛利さん、頼みたいことがあるのですが……」

 佑太は、はぐらかすかように言った。

「何でしょうか? 私にできることであれば……」

「吉本辰夫の様子に、最近、何か変わったことがなかったかどうか、それと……彼のパソコンの使用履歴、ゲーム機など調べていただけませんか?」

 佑太は言った。

「先生、先生は何か?」

「これは、あくまで、僕の勘なんですが……あの事件の背後にいたマスター、もしかしたら……」

「先生、まさか……先生は、マスターが吉本辰夫だと?」

「ええ、僕には、そう思えるのです」

「分かりました。 先生がそう思われるのであれば、早速調べてみます。 で、先生は、嵯峨野の方も土砂降りで、観光どころじゃなかったんでしょうけど……これからどちらへ?」

「僕ですか……僕らは、このまま、ホテルへ戻ることにします」

「先生は、いつまでこちらに?」

「あと数日はいます。 ですから、何か分かりましたら、ご連絡願えませんか?」

「分かりました。 さっき仰せつかったこと、判り次第、ご連絡します。 それから、如何です、課長が一席設けろと言ってますので、ぜひ。 唐沢も今度の件で、新婚旅行が邪魔されて、うちから帝都警視庁にお礼がてら話したところ、休暇の延長が認められまして、皆一緒ですが、如何でしょうか?」

「ええ、そうなんです。 このまま、帰ったんじゃ、美香が怒り狂いそうでしたから、ほっとしています、はい」

 唐沢が、眉尻を下げて言った。

「そうでしたか、分かりました。 それじゃあ、ぜひご一緒させてください」

 佑太は快諾した。
                                           
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地縛記憶2: 京都、地脈の乱れ(第89回) [ミステリー]

 境内に入ると、見知った顔がある。 毛利と唐沢である。 二人は、池の中に突き出た場所を占める社の前にいたが、佑太たちの顔を見つけると、揃って会釈を送ってきた。

「毛利さんも見えてたんですか?」

 佑太は訊いた。

「ええ、正面橋事件と関係があるかもしれませんので……」

 答える毛利は、悩ましげな顔である。

「正面橋事件とですか?」

 佑太は訊いた。

「死んだのは、吉本辰夫なんですよ、先生」

 毛利の横から唐沢が言った。

「よしもと・たつお……吉本辰夫って、吉本敦子の弟の?」

「そうなんです。 吉本敦子の弟です。 それで、かけつけたんです。 なんか、敦子がからんだ事件と関係があるのかと思いまして、姉弟ですから。 もしかしたら、また殺しかと……だけど、落雷にあって死んだのは間違いないようです。 目撃者もいますし……正面橋の事件とは関係はないようなんですが、果たしてそうなのか?」

 毛利は事件との関連が分からず、悩んでいるようである。

「私は、やっぱ、怨霊が……関係あるんじゃないかと……思うのですが。 なにしろ、敵同士の血筋が混じったのが辰夫なんですから……これは、ある種、ハイブリッドですよね。 ですから、辰夫の中で、敵同士がぐちゃぐちゃになって、結果、相討ちってことで……それで、落雷が落ちて、決着がついた。 そんなのもありかな、なーんて、如何でしょう?」

 横から唐沢が言った。 毛利は、唐沢の方をチラリと見たが、何も言わない。

「それで、目撃者の話では、吉本辰夫は、どんな状況で落雷にあったんですか?」

 佑太は訊いた。

「吉本辰夫は、そこの橋、法(ほう)成(じょう)橋っていうのですが……その橋の上から池の方をじーっとにらんで立ってたんだそうです、雨の中を傘もささずに。 そしたら、いきなり、ダ―ンと雷が落ちて、吉本辰夫は池の中へ落ちた、そう言うてます、目撃者は」

「目撃した人がいるんですか、落雷の現場を?」

「ええ、なにしろ、土砂降りの中、傘も差さずにずぶぬれになってたようですから、人目を引いたんじゃないでしょうか。 で、目撃者は三人いて、どの目撃者の話も同じでした。 ああ、それから、目撃者のひとりが言うには、吉本辰夫の眼が、赤く光りを放っていたということです。 まあ、それは眼の錯覚かと思いますが……」
 毛利は答えた。
                                             
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地縛記憶2: 京都、地脈の乱れ(第88回) [ミステリー]

「やっぱり、ハアハア……ここだったんですね。 ハア、ハア」

 声の主は、香取刑事だった。 傘をさしてはいるが、髪は雨に濡れ、肩で息をしている。

「香取さん、どうしたんですか? そんなに息を切らせて」

 佑太が訊くと、

「だって、お二人が、突然、目の前から消えてしまわれて、私、びっくりして、お二人が、神隠しにでも遭われたのじゃないかと思ったんですよ。 でも、私がもたもたしたせいで、野宮神社に、先に行かれてしまったんじゃないかと思って、ここに来てみたんです。 雨は降って来るし、雷は鳴るしで、ハア、ハア、ほんとに混乱してしまいました。 でも、よかった、ハアハア」

 香取は、まだ息が苦しそうである。

「そうでしたか。 僕らは普通に歩いていたんですが、心配させてしまって、申し訳ありませんでした」

 佑太は取り繕うように言った。 本当のことを言っても、信じてもらえないからである。 佑太が周囲を見回すと、野宮神社の狭い境内は雨にけぶってはいたが、先ほどまでと違い、参拝客で溢れかえっていた。

 三人は野宮神社での参拝を終えると、すぐに天竜寺の駐車場へと急いだ。 東の空にはときどき稲光が走るが、雷鳴はしだいに小さくなり遠ざかっていく。 駐車場に着くと、佑太は香取に神仙苑へ向かってくれるよう頼んだ。


 車が御池通りに入ったとき、雷鳴は治まり、雲の切れ目から日差しも覗いていたが、神泉苑に近づくと苑周辺は物々しい雰囲気だった。 黄色い規制テープが、何か事件が起きていることを示唆している。 香取が車を御池通り沿いの神仙苑南側の入口前で止めると、警官がひとり寄ってきた。

「何か事件ですか?」

 香取は、警察手帳をかざして訊いた。

「高校生の溺死ですわ」

「高校生が溺死」

「そうです」

「事故ですか?」

「ええ、なんや、雷に打たれて、池に落ちたんやないかと」
 
 警官は答えた。

「ちょっと、私と後ろのお二人も入れてもらいますよ、中に用がありますから」

「ええですよ」

 佑太と杏子は、香取のあとから神仙苑の中へ入っていった。
                                             
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地縛記憶2: 京都、地脈の乱れ(第87回) [ミステリー]

 両の袖から黄金の粉が大量に吹き出す。 最初、黄金の粉は、まるで龍のようにうねりながら、杏子の周りを幾度となく舞った。

 次に佑太の身体を品定めするかのように撫でたが、すぐに離れ、今度は、福本洋平と沢口絵里香の身体の周りをつむじ風のように黄金の帯となって包みこんでいく。 親子の顔には喜びの色が浮かんでいる。 しだいに、二人の姿は霞んでいく。 そして、とうとう二人の姿は見えなくなった。

 福本親子の姿が消えると、黄金の帯は、ゆっくりとゆっくりと天に向かって登って行く。そして、最後は天の彼方へと消えていった。

 高貴な女性は、さらに両袖を振る。 袖からはまたしても黄金の粉が吹き出すと、空に舞い上がり塊となるや、しだいに黄金の龍へと姿を変え、たちまち東へ向けて飛んでいった。

 高貴な女性は広げたもろ手を降ろすと言った。

「わらわを呼び出した黄金の龍の使いのもの、そなたの願い、叶うようはからいましたぞ。 願いかなえば、善女(ぜんにょ)龍(りゅう)王(おう)が内裏の池に姿を現すことになるでしょう。 さっ、首尾を確かめに行くがよい」

 女性は言い終わると、にこやかに微笑み、軽く頷いた。 その途端、女性の姿から色が消え始め、しだいに金色の砂へと変わっていき、まもなく、苔の上に舞い落ちていった。

 佑太は、突然顔に冷たいものを感じ、我に返った。 気付くと雨である。 目の前の庭の苔は雨に濡れて光りを放っている。 佑太は傘を開くと杏子の顔を見た。

「さっきの若い女性、名乗ってくれなかったけど……斎王、だよね」

「ええ、私も、そう思います」

「で、善女龍王が姿を現す……内裏の池って、どこだと思う?」

「私、間違いなく、神仙(しんせん)苑(えん)だと思います」

「神泉苑?」

「ええ、平安京の時代の内裏は今の二条城のあたりにあったんです。 そして、その内裏の池が神泉苑なんです。 昔、その神仙苑には善女龍王という龍神が棲むという言い伝えがあって、今も、境内にある法(ほう)成就(じょうじゅ)池(いけ)の中の善女龍王社というところで、お祭されているのですよ」

「そうか、そんな言い伝えがあるんなら、間違いないだろうね、神泉苑で」

 そのとき、背後から声がした。
                                          
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地縛記憶2: 京都、地脈の乱れ(第86回) [ミステリー]

 佑太はポケットから守り袋を出して四つの水晶玉を取り出した。 佑太の手の中で四色の珠がそれぞれに和らかい光を放っている。

 杏子も守り袋を取り出して、その口を開いた。 すると、佑太の手にあった四色の珠がふわふわと宙に浮き上がり、ゆっくりと杏子の守り袋の中に入っていく。

 まもなく、袋の中の白い砂の中から珠がひとつ現れ、四色の珠に混じり、珠は五つになった。 五つ目の珠は金色の光を放ち、それには『仁』という文字が刻まれていたが、杏子の目の前で、しだいに 『信』 『義』 『礼』 『智』 の珠と癒合し始めた。 そして、最後は一個の珠になると、音もなくくだけて砂に混じった。

 そのとき、砂の色は金色に変わっていた。

「黄金の砂だわ、佑太さん」

 黄金の砂を映す杏子の瞳は、金色に輝いていた。

「じゃあ、杏子の手でそれを……」

「分かりました」

 杏子は守り袋の金色の砂をひとつまみすると、芝の上に振り撒いた。 すると、金砂は、杏子指先のにさらさらと乾いた感触を残し、まるで、意思があるかのように黄金の輝きを放ちながら、一度空へ舞い上がると、鳥が翼を広げたような形をつくり、しばらくは宙に浮いていた。 そして、間をはかったかのように、ゆっくりと苔の上に舞い落ち始めた。

 金色の砂が落ちると、今度は、苔が黄金の輝きを放ち始める。杏子の手から黄金の砂が放たれるたびに、最初は表面が白く光っていた苔庭が、徐々に金色の絨毯に変わっていく。 そして、袋からすべての砂が苔の上にまかれてしまった時、変化が起きた。 

 苔の上に積もっていた金色の砂が宙に浮き上がってきたのである。

 砂は四人の目の前で徐々に集まり、形を成した。 それは、黄金の人の姿である。 黄金の人形にしだいに色がついていく。 そして、最後には、十二単衣をまとい、長い黒髪に紐のような髪飾りをつけた高貴な雰囲気を持つ女性の姿が現れた。

「長き眠りにつきしわらわを呼び出したのは、そなたか?」

 女性は切れ長の眼を杏子に向け、紅を引いた口元から言葉を発した。

「はい、伊勢の神宮であるお方から白き砂を渡され、使命が書かれた紙を預かり、ここにたどり着き、書かれた通りのことを、今、成し遂げたところです」

 杏子は答えた。

 すると、高貴な女性の無表情な顔に笑みが浮かんだ。

「そうか、そうであったか。 そなたが伊勢で会ったのは五十鈴川に棲みし黄金の龍の化身ですぞ、ホッホホホホ。 そうでしたか、そなたたちは、あのものの使いでありましたか」

 そう言って、高貴な女性はしばらく眼を閉じていたが、やおら眼を開けると言った。

「そなたたちの願い、あい判りました。 黄金の龍の頼みであれば、きかぬわけにはいきますまい。 この古都に起きし地脈の乱れ、必ず、わらわが、鎮めましょうぞ」

 言葉が終ると、女性は両手を大きく広げた。
                                           
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地縛記憶2: 京都、地脈の乱れ(第85回) [ミステリー]

 山下は、足を止めると、木刀をすうっと振りあげた。 佑太は間合いを詰める。 山下が、木刀を上段から一気に振り下ろす。 だが、佑太は見切っていた。 彼は、木刀をかわしながら身を沈め、前に一歩踏み込むや、低い姿勢のまま傘を一気に山下の喉元に突き入れた。

「グエッ」

 山下は、ガマガエルのような唸りを吐き、後ろへ昏倒した。 その直後、女の悲鳴が聞こえた。 佑太が横を見ると、傘を手にした杏子が、地べたに倒れた野垣良子を見下ろしている。

 佑太は残る二人を見た。 二人の顔に血の気はないが眼からは赤みが消え敵意も失せている。

「あなた方お二人は?」

 佑太は訊いた。

「私は福本洋平といいます。 これは娘の絵里香です。 貴方がたが倒されたのは絵里香を殺した二人組です。 私たちは、殺されて、この世に、まだ未練を残したままですが、貴方たちにうらみがあるわけではないのです。 ただ、どこに行くべきか、分からないままにさまよっているうちに、救われる道があるから、一緒に行こう。 そう、そこに倒れている二人に言われて、ここに来てしまいました。
 ですが、その二人も、何かに操られていたような。 今、あなた方お二人が、私たちを救ってくれるような気がします。 教えてください、私たちはどうすればよいのかを、お願いします」

 福本洋平は言った。 迷い悲嘆にくれた面差しである。 沢口絵里香も救いを求める顔で父親に寄り添っている。

「僕らに、あなた方をお救いする手立てがあるのかないのか、今は分かりませんが……」

 佑太は、二人を救ってやりたかったが、その術がわからない。 その時、佑太はポケットに温もりを感じた。

「そうだ、今僕らは野宮神社に向かっているところですが、一緒に行きませんか? そこへ行けば、何か光明が見いだせそうな気がしますが……」

 佑太の言葉に、福本洋平と沢口絵里香の顔が、幾分和んだ。 佑太が足元を見ると、倒れていた山下昇と野垣良子の身体が黒ずんできていた。 そして、しだいに縮んでいき、最後は砕けて灰となった。

「さあ、急ぎましょう」

 佑太と杏子は、福本洋平と沢口絵里香を伴って野宮神社へと向かった。

 野宮神社の階段を上ると、突然もやが晴れて周りが明るくなった。 右手に緑の絨毯のような苔庭が見える。 苔の表面が何か粉をまぶしたように、白くきらきらと光っている。

〈あれだな、伊勢の斎王たちの生まれし清き緑というのは〉

佑太と杏子は、表面に光沢があり、しかも柔らかく厚みのある、敷物を思わせる苔を眺めながら、庭の回りを、ゆっくりと歩く。 そして、苔庭を一望できるところで足を止めた。
                                         
   続く ⇒ http://shiratoriksecretroom.blog.so-net.ne.jp/2013-11-09-1


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