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地縛記憶2: 京都、地脈の乱れ(第91回) [ミステリー]

終章

 「さあ、どうぞ。いやいや、安藤先生、先生のお蔭で、ほんま、助かりましたわ。 そやけど、あの高校生の吉本辰夫がマスターやったとは、驚き桃の木でしたな」

 桜井課長が佑太に酌をしながら言う。 明日は佑太と杏子が東京へ帰るとのことで、捜査への協力のお礼も兼ねて桜井が一席設けることになったのである。 

 座敷には、桜井の他、佑太夫婦と唐沢夫婦、毛利警部と佑太たちを天竜寺へ案内してくれた香取巡査部長の顔が見える。

 神仙苑で佑太に依頼を受けて動いた毛利警部は、吉本家の家宅捜索の結果、数々の重大な証拠物件を見つけることができた。

 まず、吉本辰夫のゲーム機の使用記録の探索の結果、オンラインソーシャルゲームの中で、彼のつくり上げた組織の存在が明らかになり、ケータイの通信記録も含めると、吉本辰夫が高木洋介、山下昇らを操っていたマスターであることが明白になった。

 また、資金源も明らかになった。 辰夫は自分名義の銀行預金口座を持っていた。 それは、父である福本一郎が辰夫のためにつくったものである。 辰夫は、その口座の預金を元手にオンラインの株式投資を行い、数億の資金が辰夫名義の口座に残っていた。

 さらに、福本洋平殺しをマスターに依頼したのは、福本洋平の義兄の横山仁である証拠が見つかった。 つまり、福本家の跡取りである福本洋平の殺害を思い立ったのは義兄の横山仁だったのである。

 彼は、知り合いのオンラインゲームの愛好者からの情報で、マスターの秘密サイトの存在を知り、福本洋平殺害をオンラインソーシャルゲームのマスターである辰夫に依頼し、その依頼を受けた辰夫がゲーム上の部下である高木洋介と山下昇に福本洋平殺しを実行させたという構図が浮かび上がった。

 ところが、マスターである吉本辰夫から山下昇への沢口絵里香殺害の指令は下りていたが、沢口絵里香殺害の依頼を吉本辰夫が誰かから受けたという記録は見当たらなかったのである。

 さらにマスターからの殺害の司令はあったにもかかわらず、殺害が実行されなかった件も見つかった。 それは、福本洋平の長女と長男の殺害指令だった。 これは別な人物へ司令が下りていたが、実行されなかった。

 指令を受けたのは、京都市内のある医療法人に勤める三十歳代の男だった。 その男に事情聴取を行ったところ、指令は受けたが、怖くて実行できなかったとのことで、そのため、この男には脅しのメールがマスターから届き、その中身は、指令実行の期限が四月中で、それが過ぎても指令が実行されていない場合、男の命の保証はないとの内容だったことも判った。 この福本洋平の長女と長男の殺害に関しても、マスターへの誰かからの依頼があったとの記録は見つからなかった。

 事件は、これらの証拠から、ほぼ一連の事件の全容が判明したことになる。 

 福本洋平殺害を依頼した横山仁も逮捕され、容疑を認めた。 肝腎の黒幕であるマスター、吉本辰夫を逮捕する前に死なせてしまったのが唯一悔やまれる点であったが、落雷事故とのことで致し方なし、これも天罰かと、捜査本部の幹部は語っていたとのことである。

「横山仁の線は、毛利の読みが当たってたようですが、私の方は全くの大はずれでした。 上司としては面目丸つぶれですな。 エッヘッヘッへ」

 桜井は自嘲気味に言ったが、事件の解決をみたためか、表情は満足げである。

「いえ、私の読みと言っても、ちょっとだけ当たっただけで、ヤマを……いや、事件を解決に持っていけたのは、大半は安藤先生のおかげでした。 プロファイリングと神仙苑で閃かれた勘、さえてましたもんね。 それに、高木洋介の身柄の確保にしても、唐沢の執念がなけりゃあ、海外へ逃がしていたかもしれませんしね」

 毛利が、唐沢を指しながら、渋い顔で言った。
                                             
   続く ⇒ http://shiratoriksecretroom.blog.so-net.ne.jp/2013-11-15-1


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