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地縛記憶2: 京都、地脈の乱れ(第85回) [ミステリー]

 山下は、足を止めると、木刀をすうっと振りあげた。 佑太は間合いを詰める。 山下が、木刀を上段から一気に振り下ろす。 だが、佑太は見切っていた。 彼は、木刀をかわしながら身を沈め、前に一歩踏み込むや、低い姿勢のまま傘を一気に山下の喉元に突き入れた。

「グエッ」

 山下は、ガマガエルのような唸りを吐き、後ろへ昏倒した。 その直後、女の悲鳴が聞こえた。 佑太が横を見ると、傘を手にした杏子が、地べたに倒れた野垣良子を見下ろしている。

 佑太は残る二人を見た。 二人の顔に血の気はないが眼からは赤みが消え敵意も失せている。

「あなた方お二人は?」

 佑太は訊いた。

「私は福本洋平といいます。 これは娘の絵里香です。 貴方がたが倒されたのは絵里香を殺した二人組です。 私たちは、殺されて、この世に、まだ未練を残したままですが、貴方たちにうらみがあるわけではないのです。 ただ、どこに行くべきか、分からないままにさまよっているうちに、救われる道があるから、一緒に行こう。 そう、そこに倒れている二人に言われて、ここに来てしまいました。
 ですが、その二人も、何かに操られていたような。 今、あなた方お二人が、私たちを救ってくれるような気がします。 教えてください、私たちはどうすればよいのかを、お願いします」

 福本洋平は言った。 迷い悲嘆にくれた面差しである。 沢口絵里香も救いを求める顔で父親に寄り添っている。

「僕らに、あなた方をお救いする手立てがあるのかないのか、今は分かりませんが……」

 佑太は、二人を救ってやりたかったが、その術がわからない。 その時、佑太はポケットに温もりを感じた。

「そうだ、今僕らは野宮神社に向かっているところですが、一緒に行きませんか? そこへ行けば、何か光明が見いだせそうな気がしますが……」

 佑太の言葉に、福本洋平と沢口絵里香の顔が、幾分和んだ。 佑太が足元を見ると、倒れていた山下昇と野垣良子の身体が黒ずんできていた。 そして、しだいに縮んでいき、最後は砕けて灰となった。

「さあ、急ぎましょう」

 佑太と杏子は、福本洋平と沢口絵里香を伴って野宮神社へと向かった。

 野宮神社の階段を上ると、突然もやが晴れて周りが明るくなった。 右手に緑の絨毯のような苔庭が見える。 苔の表面が何か粉をまぶしたように、白くきらきらと光っている。

〈あれだな、伊勢の斎王たちの生まれし清き緑というのは〉

佑太と杏子は、表面に光沢があり、しかも柔らかく厚みのある、敷物を思わせる苔を眺めながら、庭の回りを、ゆっくりと歩く。 そして、苔庭を一望できるところで足を止めた。
                                         
   続く ⇒ http://shiratoriksecretroom.blog.so-net.ne.jp/2013-11-09-1


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