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薬剤でおきる神経内科の病気 (1) [神経内科の病気]

 桜井の前に座る高齢の女性患者の表情は硬い。身体からも自然な動きが消えている。

 「いつごろからですか? 動きが悪くなったのは」 桜井は付き添っている患者の娘に訊いた。 「先月中ごろからです」 娘は答えた。

 「何か、薬は飲んでおられませんか?」 桜井は再び訊いた。 「薬ですか……薬なら近くのクリニックで出してもらっているのがありますが……」 娘は答えた。

 「お薬手帳はありませんか?」 桜井は訊いた。 「ええっと……ああ、持って来てました。ちょっと待って下さい」 娘はそう答えると、バッグの中を探し始めた。

 「ああ、これです」 娘は桜井に手帳を差し出した。桜井は受け取ると、手帳を開き、処方記録を確認していたが……「ああ、スルピリドを飲まれていたんですか……」 桜井は手帳に視線を落としたまま呟いた。

 「ええ、うつ症状に効く薬だから……と言われてました、出された先生は……」 娘が言った。桜井は顔を上げた。 「いつ頃から飲まれてます? この薬……」 桜井は訊いた。 「いつごろでしたか……ええーっと、先月になってからでしょうか。でも、それが、何か?」 娘は訝しげな表情になった。

 この患者さんは、薬剤性パーキンソニズム、スルピリドという薬剤の副作用で身体の動きが悪くなっていたのである。

 スルピリドは消化管の動きを高めたり、うつ症状を軽くしたり、気分を安定させる作用があるため、処方される薬である。

 この薬は……ドパミン系を抑える作用を持つ。だから、それによる副作用としてパーキンソン症状が出ることがある。これは、ドパミンの分泌が減少している高齢者で起きやすい。もともとパーキンソン症状がある人に使うと、さらに症状がひどくなる。

 スルピリドによるパーキンソン症状は、服用をやめればしだいに消えていく。もし、残れば、元々あったパーキンソン症状と考える。パーキンソン症状が出る病気では、うつ傾向にあることが多く、そのため、この薬剤の処方がなされることがあるからである。

 パーキンソン症状をおこす可能性のある薬剤は、スルピリド以外にも複数ある。新患でパーキンソン症状のある患者さんが見えた場合、私は、必ず、服用中の薬剤をチェックしてみることにしている。

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