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難しい神経内科の病気 (2) [神経内科の病気]

 アミトロの患者さんの場合、末期になると、患者さんも難儀だが、看護する側も大変である。食事の介助、排尿や排便の介助など、看護の仕事量は増えて行く。言葉がしべれなくなれば、アクリル文字板を使ってコミュニケーションをしながらの看護、介護となる。体力だけでなく、一つ一つの介護介助に必要な時間も長くなる。

 それは、肢体不自由の病気の患者さんでは、みんな同じではないか、そう思われるかもしれない。だが、違うのである。何が違うのか? 

 寝たきりでいると、床ずれができる。それを防ぐには定期的な体位交換が必要、それは他の病気でも同じ、確かにそうである。だが、体位交換に使うエネルギーと時間が、アミトロの場合、違うのである。文字板でコミュニケーションをとる必要があり、さらに夜は神経が高ぶっているためか、患者さんからは細部まで注文があり、看護師が慣れないものだと体位を決めるのに十数分以上かかり、決まったと思ったら、直後に、また体位交換の要求があるという。

 だいぶ前のことになるが、私が勤めていた病院で当直をしていた時、こんなことがあった。宿直室で寝ついたと思った途端、枕元の電話が鳴った。出ると、筋ジストロフィー病棟からだった。用は何かと聞くと、それには答えず、とにかく病棟まで来てくれという。部屋の時計を見ると、午前1時少し前である。

 私は、電話では言えないことが起きたのかなと思い、凍てつく寒気の張りつめた渡り廊下を通り、病棟へと向かった。

 病棟の看護詰め所に着くと、女性看護師(当時は看護婦)が二人私を待っていた。怖い顔である。「先生、これを見てください」一人の看護師が言った。差し出されたのはノートである。見ると……『正』が幾つも並んでいる。

 私は訊いた。「なんですか、これは?」 すると、看護師の顔のこわばり具合が増したように見えた。 「先生、○○さんの準夜帯の体交(体位交換)の回数ですよ! これから朝まで何十回になると思いますか、これじゃあ、他の患者さんに手が回りませんよ」 すごい剣幕だった。

 看護師の話では、一人のアミトロの患者さんの体交で時間をとられてしまって、他の患者さんの看護、介護ができない、他の患者さんたちから苦情が出ているとのことだった。その日の当直医である私を呼び出したのは、アミトロの患者さんを入院させる若手医師に、自分たちの窮状を、訴えたかったからのようだった。

 まだ若かった私は、その日、度重なる体位交換で疲れて、憤懣やるかたない女性看護師の話を聞くために、1時間程、睡眠時間を削らざるをえなかった。

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