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哲学 [人生]

 医学生の頃、ある教授から、「医者には哲学が必要だ」と言われたことがある。当時は、まだ医師免許もなく、漠然と納得はしたものの、必要な哲学とは何か? どうやったらその哲学とやらが手に入るのか? 皆目、見当もつかなかった。 卒業後、忙しく医師としての技術的な修練を積む方に夢中で、またそれに追われて、たまの休日にはゴルフにうつつを抜かし、すっかり忘れてしまっていた。
 そして、それを鮮明に思い起こすに至ったのは、それから5年ほど経ってからのことだった。私は、その時、某国立療養所での勤務を始めていた。そこで、赴任当初から、重症の患者さんたちを何人も見送ることになったのである。
 療養所の結核病棟には、抗結核剤が効かなくなった薬剤耐性の重症結核の患者さんたちが何人も入院されており、その療養につきあうことになった。私は、療養所の筋ジストロフィー神経難病の患者さんたちの主治医になるために赴任した神経内科専門医だったのだが、結核を診る医師がいないため、主治医にならざるを得なかったのである。
 亡くなっていかれた患者さんの中には、二十歳代で発病し、婚約者と別れ、三十年以上もの隔離された療養生活を送られ、とうとう病院から出ることなく、亡くなっていかれた女性がいた。その話を病棟婦長から聞かされた時は、何か小説にでも出てくるような話に思えた。隔離された若い患者の中には、うつに陥ったのか、自殺する者も複数あったと50代半ばのナースから聞かされた。そして、未熟な医師である私はただ聞くばかりで、返す言葉がなかった。
 一方、筋ジストロフィー病棟では、20歳前後で、測ったように亡くなっていく少年、青年たちもいた。そんな死にいく患者さんを、助ける術もなく見送ることで、死とは何か? 人生とは何か? 自分なりに考えていき、なんとか哲学と言うか、死生観と言うか、そういったものを自分なりに構築できたような気がする。
 拙著『レム1』(電子書籍)にもそういう哲学に触れた箇所があるが、このブログでも触れていこうと思う。


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