SSブログ

地縛記憶2: 京都、地脈の乱れ(第83回) [ミステリー]

 駐車場を出て参道をしばらく歩くと、庭園受付がある。 三人は、そこで受付を済ますと、中へ入った。

 大方丈を右手に見ながら進むと、目の前に池が見える。

「あれが、曹源池ですか?」

 佑太が訊いた。

「ええ、そうです。 夢窓国師がつくられた庭園で、国の史跡として特別名勝第一号に指定されていますし、平成六年には世界文化遺産にも登録されているんですよ」

 香取の説明は要領を得ていた。 彼女は、庭園だけでなく、境内の建物についても懇切丁寧に解説していく。 書院を右手に見ながら池のほとりを半周程めぐると、道は雑木が茂る林の中の坂道へとつながる。 三人は、道中の風景を楽しみ語らいながら、坂道を上り切り、天竜寺の高見にある北門をくぐった。

 北門を抜けたところで左手を見ると、竹林の中を小路が小高い山に向かって伸びている。 小路は、小柴垣のせいで幾分狭く見え、登るものと下るものが窮屈げに交錯している。 佑太が小路の先に見える山の頂きに眼をやると、雨雲がかかっている。

〈まもなく雨だな……野宮神社に着くまで、もつかな?〉

「ここを登って突きあたりで右手に折れて路なりに行けばトロッコ列車の駅の上に出ます。 そこから下れば、十数分で野宮神社に着くことになります。 雨が降り出しそうですから、急ぎましょうか」

 横から、香取が言った。

「そうですね、急いだ方がいいでしょう」

 佑太はそう言うと、雨雲のかかる山頂に向かって足を踏み出していた。

 小路は、すぐに登り勾配になり、左右は背の高い小柴の垣根と竹林だけになる。 そのせいか、佑太は、まるで、大きな駕籠の中を歩いているような錯覚を覚えた。

 突然、速足で歩く佑太の腕を誰かがつかんだ。 見ると杏子である。 その表情が硬い。

「佑太さん、なんか変ですよ」

「変? 何が変なんだ」

「ほらっ、見て、回りを。 香取さんも、さっきまですれ違ってた人たちも、みんな消えてしまってるじゃないですか。 それに雲の色も、なんだか赤黒くなって、あんな色の雲って、見たことないです」

 杏子の言葉に、佑太は辺りに目をやった。 すると、山頂にかかっていた雨雲は赤黒い色に染まり、それが今は竹林の上まで垂れこめている。 よく見ると、竹林の中にも赤色を帯びたもやがたなびき、小柴垣を越えて、小路にまで流れ込み、おどろおどろしい風景である。 そして、そこにいるのは、佑太と杏子だけである。

「あの赤黒い雲の色、もやの色、確かに不気味だね。 これは、あのときの……」

 佑太は、六条河原の地縛記憶で見た赤黒いもやのようなものを思い出していた。
                                                     
   続く ⇒ http://shiratoriksecretroom.blog.so-net.ne.jp/2013-11-07-1

nice!(0)  コメント(0)  トラックバック(0) 
共通テーマ:

nice! 0

コメント 0

コメントを書く

お名前:[必須]
URL:[必須]
コメント:
画像認証:
下の画像に表示されている文字を入力してください。

トラックバック 0

トラックバックの受付は締め切りました

この広告は前回の更新から一定期間経過したブログに表示されています。更新すると自動で解除されます。