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地縛記憶2: 京都、地脈の乱れ(第78回) [ミステリー]

「そら、おすえ。 あこの苔は、絨毯苔言うて、ほんわかと生えてて、ほんまきれいどす。 あの神社の名物になっとる程どす。 お客はん、それお訊きになりたかったんどすな。 京の苔の御贔屓になっていただきまして、ほんまおおきに」

 女将はそう言うと、佑太に酒をすすめた。

「佑太君、君、庭や斎王に興味があったの?」

 義兄が訊いた。

「えっ、ええちょっと京都に来てから、興味がわきまして……」

 佑太は少し言葉に詰まった。

「お兄様、庭のことも斎王のことも、私が吹きこんだんです。 最近、私、執筆のネタを探しているんですの。それで佑太さんも協力してくれてるんですよ」

 杏子が援軍を出した。

「おいおい、お前、ご主人様を、自分の取材に協力させてるのか? すごい女房殿だな、お前って奴は。 佑太君、最初が肝心だよ。 ビシッと抑えなければ、つけ上がるからね、杏子は男勝りのところがあるから。 なにしろ、小さいころはおてんばで、お茶、生け花より、薙刀、小太刀だの武芸の方に夢中だったんだから」

「貴方っ」

 妻の紀子が夫の膝を軽く叩くと、三四郎は静かになった。

「あらっ、お兄様こそ、ビシッとおっしゃられているじゃないですか」

 反撃の機をうかがっていた杏子が、笑いをこらえながら言った。 座敷に笑いが広がると、いつのまにか、苔の話は話題から消え去ってしまったが、佑太の頭には、野宮神社の絨毯苔のことがしっかりと刻まれていた。

 翌朝、佑太のケータイに毛利からのメールが入っていた。 メールには『昨日の取り調べから色々と新事実が分かり、ご依頼の件にもお答えできる情報も入手いたしました。 お時間のある時に府警本部までお出ましいただければ幸いです』 とある。 この日佑太は嵯峨野の野宮神社に行くことを予定していたが、急遽その前に府警本部に寄ることにした。

 佑太と杏子が、府警本部の玄関わきの受付で毛利に取り次ぎを依頼すると、話が通じていたのか、二人はすぐに桜井課長室に通された。部屋には、桜井と毛利が待っていた。

「お早うございます。 朝早くから毛利が連絡を入れていたようでほんま申し訳ないことで。 ですが、こんなに早くお見えになるとは思いませんでしたよ。 ほな、早速ですが、そちらへお座りください」

 桜井は自分の向かいのソファーを指して言った。 佑太たち二人が座ると、桜井が毛利に目配せした。
                                                   
  続く ⇒ http://shiratoriksecretroom.blog.so-net.ne.jp/2013-10-29-1

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