地縛記憶2: 京都、地脈の乱れ(第55回) [ミステリー]
自首してきた吉本敦子が、取り調べの場で語った事件の全容と背景はこうである。
最初の供述は、正面橋事件についてであった。
事件の一週間ほど前に、彼女は高木に大学の構内で呼び止められた。 しばらく立ち話をしたあと、高木は、他人に頼まれた仕事があるのでそれを手伝ってくれないかと言った。
高木が言うには、彼が最近はまっているオンラインのソーシャルゲームでポイントを稼いでいくうちに、思わぬボーナスが出た。 ボーナスとは、マスターと呼ばれる人物がしきるチームの特殊メンバーに選ばれたことである。 特殊メンバーになったことで、彼はゲーム世界で特別な場所に入る権利を得た。
その特殊メンバーというのは、ソーシャルゲーム世界の諜報部員のようなもので、時々ミッションが降りてくる。 そのミッションを成し遂げれば、そのたびに、メンバーとしてのランクが上がり、ゲームの中で特典が付き、活動範囲がひろがり、同時に高額な報酬も出る。
報酬の額はミッションの内容によって異なるが、数十万、場合によっては数百万円のこともある。 ミッションはゲーム世界で行うものもあれば、現実世界で行うものもある。 いずれにしても、ミッションもゲームの一部である。 これが、高木が特殊メンバーになった時点で、もたらされた情報である。
高木によれば、今回が彼にとって初めてのミッションである。 そして、今度のミッションとは、マスターから逐一入る指示に従って現実の世界で動くことであり、最初の指示が、 『カップルとして動く相棒をゲットせよ』だという。 そこで、高木は、相棒の役を吉本に頼むことに決めたのだと言った。
吉本敦子は、多少の不安と疑問は残ったが面白そうでもあり、大学入学以来仲のいい高木からの頼みということもあって、軽い気持ちで引き受けたのである。
正面橋での事件の夜、吉本は高木の指示通りに化粧を落とし、伊達眼鏡をかけて、自宅で彼の次の指示を待った。 午後九時過ぎに高木からケータイにメールが入り、それは午後十一時十五分に車で迎えに行くとの内容だった。
そして、高木の車が吉本敦子の自宅前に着いたのは、約束の時刻の数分前だった。 高木は縁の厚い伊達眼鏡をかけ、ひげまで着けて人相を隠していた。 まるで、スパイ映画である。 高木は車の中で、こう言った。 『これから正面橋である人物にメモを渡すことになっているので、そこへ向かう』 車は程なく目的地に着いたが、まだ目的の相手は来ていなかった。
その時メールが高木のケータイに入った。 『豊国神社の前で待機せよ』 とのマスターからの指示である。 高木は指示に従って車を豊国神社の前に止め、次の指示を待った。
午前零時を過ぎたころ、メールが入った。 今度は、正面橋そばの指定した公衆電話から、ある電話番号宛に電話をかけるようにとの指示である。 その電話番号の主は福本洋平と聞いて、吉本は驚いた。
福本洋平は京都では比較的有名な人物であり、京都生まれの吉本敦子が福本の名を知っていても何の不思議もないのだが、彼女が福本を知っていたわけは、もっと因縁深いものだった。
続く ⇒ http://shiratoriksecretroom.blog.so-net.ne.jp/2013-10-05-1
最初の供述は、正面橋事件についてであった。
事件の一週間ほど前に、彼女は高木に大学の構内で呼び止められた。 しばらく立ち話をしたあと、高木は、他人に頼まれた仕事があるのでそれを手伝ってくれないかと言った。
高木が言うには、彼が最近はまっているオンラインのソーシャルゲームでポイントを稼いでいくうちに、思わぬボーナスが出た。 ボーナスとは、マスターと呼ばれる人物がしきるチームの特殊メンバーに選ばれたことである。 特殊メンバーになったことで、彼はゲーム世界で特別な場所に入る権利を得た。
その特殊メンバーというのは、ソーシャルゲーム世界の諜報部員のようなもので、時々ミッションが降りてくる。 そのミッションを成し遂げれば、そのたびに、メンバーとしてのランクが上がり、ゲームの中で特典が付き、活動範囲がひろがり、同時に高額な報酬も出る。
報酬の額はミッションの内容によって異なるが、数十万、場合によっては数百万円のこともある。 ミッションはゲーム世界で行うものもあれば、現実世界で行うものもある。 いずれにしても、ミッションもゲームの一部である。 これが、高木が特殊メンバーになった時点で、もたらされた情報である。
高木によれば、今回が彼にとって初めてのミッションである。 そして、今度のミッションとは、マスターから逐一入る指示に従って現実の世界で動くことであり、最初の指示が、 『カップルとして動く相棒をゲットせよ』だという。 そこで、高木は、相棒の役を吉本に頼むことに決めたのだと言った。
吉本敦子は、多少の不安と疑問は残ったが面白そうでもあり、大学入学以来仲のいい高木からの頼みということもあって、軽い気持ちで引き受けたのである。
正面橋での事件の夜、吉本は高木の指示通りに化粧を落とし、伊達眼鏡をかけて、自宅で彼の次の指示を待った。 午後九時過ぎに高木からケータイにメールが入り、それは午後十一時十五分に車で迎えに行くとの内容だった。
そして、高木の車が吉本敦子の自宅前に着いたのは、約束の時刻の数分前だった。 高木は縁の厚い伊達眼鏡をかけ、ひげまで着けて人相を隠していた。 まるで、スパイ映画である。 高木は車の中で、こう言った。 『これから正面橋である人物にメモを渡すことになっているので、そこへ向かう』 車は程なく目的地に着いたが、まだ目的の相手は来ていなかった。
その時メールが高木のケータイに入った。 『豊国神社の前で待機せよ』 とのマスターからの指示である。 高木は指示に従って車を豊国神社の前に止め、次の指示を待った。
午前零時を過ぎたころ、メールが入った。 今度は、正面橋そばの指定した公衆電話から、ある電話番号宛に電話をかけるようにとの指示である。 その電話番号の主は福本洋平と聞いて、吉本は驚いた。
福本洋平は京都では比較的有名な人物であり、京都生まれの吉本敦子が福本の名を知っていても何の不思議もないのだが、彼女が福本を知っていたわけは、もっと因縁深いものだった。
続く ⇒ http://shiratoriksecretroom.blog.so-net.ne.jp/2013-10-05-1
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