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地縛記憶2: 京都、地脈の乱れ(第52回) [ミステリー]

 山下は、福本の内ポケットに手を突っ込み、何かをつかみだした。 つかんでいたのは福本の財布である。

 山下は、その財布から、一万円札を十数枚抜き取ると、再び福本のポケットに戻した。 周りの三人は無表情で何も言わない。

「死人にカネは必要ねーからな。 おっと、さっきの茶封筒と紙切れ、あんたに返しとくからな、始末、忘れんなよ」

 山下は、立ち上がると、照れ隠しに、言い訳をはさんだが、紙切れと茶封筒をひげ面の男に渡すと、野垣良子を連れて土手を上がっていった。

 ひげ面の男は、山下昇と野垣良子の後ろ姿をしばらく見送っていたが、二人の姿が消えると、やおらひげに手をかけた。 ひげは徐々に顔から引きはがされていき、最後は白い顔が現れた。

〈なんだ、つけひげか!〉

 ひげをはがした男は、次に眼鏡をはずしたが、この時、妙に瞬きが多いのに、佑太は気付いた。

〈この眼は、あの時の……〉

 佑太は、映画村で山下と野垣の茶碗に毒物を入れた忍者装束の男の目を、この男に見たのである。 

 男は素顔に戻ると、顔をひと撫でし、そばの女の顔を見て表情を緩めたように見えたが、ケータイを取り出した時には、顔に緊張が戻っていた。

〈映画村で毒物を茶碗に入れたのは、この男に間違いない〉

 佑太に確信が芽生えた時、河原の二人の姿がぼやけ始めた。

〈ここまでか?〉

佑太がそう思った時、目の前に正面橋が現れた。

 頭上には雨傘が開いている。 どれだけの時間が経ったのか、正面橋は雨に濡れていた。 傘は杏子が差しかけていた。

「雨か……どれくらい経ったの?」

 佑太は訊いた。

「そうですね、小一時間ほどかしら……今までで一番長かったんじゃないですか」

 杏子は答えた。

「何か分かりましたか? 安藤先生」

 背中から唐沢の声がする。 振り向くと、傘をさした唐沢と毛利がいた。 毛利は、佑太の言葉を待っているようである。

「毛利さん、目撃者の中で、警察に、最初に連絡を入れたのは、誰でした?」

 佑太が訊くと、毛利は、一瞬、戸惑いを見せた。

「さ、最初に、連絡してきたのは……洛北大学大学院生の……高木洋介でしたが。 高木が、どうかしたんですか?」

 毛利は、訊き返した。
                                        
 続く ⇒ http://shiratoriksecretroom.blog.so-net.ne.jp/2013-10-02-1


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