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地縛記憶2: 京都、地脈の乱れ(第51回) [ミステリー]
ひげ面の男は、それを待っていたようである。 彼は、福本の背後から音もなく近づくと、いきなり福本の腰の辺りにしがみつき身体を一気に持ち上げた。
福本は驚いて、橋の欄干に必死でしがみつこうとするが、今度は女が福本の足をつかんで持ち上げる。 福本はしばらく抗っていたが、一旦重心を失うと、その身体は欄干を滑るようにして橋下へ落ちていき、鈍い音が橋下に響いた。
事が終ると、ひげ面の男は、女の方を向き軽く頷くと橋の向こうへと走り出した。 女も男を追いかけた。 二人して橋を回り込むと、土手から河原へと降りていく。 佑太は視線を走らせ、二人のあとを追った。
佑太の視線が河原に届くと、そこには倒れた福本を見下ろす、四人の男女の姿があった。
〈四人? こいつら、グルだったのか!〉
四人とは、福本を橋から落とした二人と、絵里香を川へ投げ込んだ山下と野垣である。
その時、河原に倒れていた福本が薄目を開けた。 それに気付いた山下がしゃがんで福本の顔を覗く。 かすかに福本の口元が動いた。
「え、り、か」
佑太にはそう聴こえた。
〈他になにか……〉
佑太は福本の唇を凝視した。 しかし、それ以上、言葉は出てこなかった。 気付くと、福本は、薄目を開けたまま、身体の動きを止めていた。
〈死んだのか。 福本の最後の言葉は、やはり、絵里香さんの名前だった。 で、このあと、三人の武者の怨霊が出るのか?〉
佑太は、四人の立つ場所から北の方へ視線を移した。 目撃証言で怨霊が見えた方角である。 遠くに、街燈の灯りに照らされ、まだ車が行き交う五条大橋が見える。 佑太は、河原の暗がりの中に何か動くものがないか探った。 だが、何も現れない。 佑太は、再び、視線を河原の四人にもどした。
四人の傍には釣りで使うアイスボックスが二個置かれている。 山下が、そのひとつの取っ手をつかんで持ち上げ目配せすると、ひげ面の男はちょっと嫌な顔をした。 しかし、すぐに、諦めたような顔になり、残りのアイスボックスを持ち上げた。 その時、佑太はアイスボックスの中身がわかった。
二人の男は、アイスボックスを手に河原を北へ歩き、先ほど佑太が視線を送った場所で足を止めた。 男たちがアイスボックスを開き逆さにすると、何かが河原に転がり出た。 転がったのは、佑太の予想した通り、首と胴体が離れた三匹の猫の死体だったが、同時に赤黒いもやのようなものが噴き出ていた。
四人は、そのもやに気づかないようである。
もやは、最初は、男二人をゆっくりと包みこむようにたなびいていたが、まもなく、ひげ面の男の体内へ吸い込まれるように入っていった。
二人の男は、しばらく、渋い顔をして懐中電灯を手に、猫の死体を観察していたが、アイスボックスのふたを閉めると、再び、女二人が待つ場所へ戻った。
野垣良子が山下に訊いた。
「あの猫の死体さ、何かわけあんの? あんなむごたらしい殺し方してさ、猫に祟られそうじゃん、気持ち悪っ」
野垣は眉をひそめた。
「わけはあるんだろうけど……俺には分かんないな。 確かに残酷だけどさ、マスターからの指示だから、やらねーわけにはなあ。 さあ、仕事は済んだから、さっさと帰るぞ。 で、あんたらは残るんだろう?」
山下が、探るように、ひげ面の男に訊いた。
「えっ? ええ、僕らは警察に通報する仕事がありますから……なにしろ、第一発見者ですからね。 お宅らも、朝になったら、必ず、警察に連絡してくださいね、目撃者なんですから」
「もちろんだ。 あとは、マスターの指図通り、頼んだぞ」
「ええ、わかってます。 警察が来たら、お宅らは、明日、朝から仕事があるから、今夜は帰ったって、それから名前は聞いてないと、言っときますから」
「ああ、それでいい。 お互い、別々に証言して、それが一致する。 それで目撃証言は信頼性が増す、そういうことだったな、マスターの指示。 じゃあ、俺たちゃ、これで失礼する。 これでお別れだな。 怨霊の陰をちらつかせるの、忘れんなよ。……おっと、忘れてた。 ずらかる前に……」
そう言うと、山下は、福本の遺体のそばにしゃがみこんだ。
続く ⇒ http://shiratoriksecretroom.blog.so-net.ne.jp/2013-10-01-1
福本は驚いて、橋の欄干に必死でしがみつこうとするが、今度は女が福本の足をつかんで持ち上げる。 福本はしばらく抗っていたが、一旦重心を失うと、その身体は欄干を滑るようにして橋下へ落ちていき、鈍い音が橋下に響いた。
事が終ると、ひげ面の男は、女の方を向き軽く頷くと橋の向こうへと走り出した。 女も男を追いかけた。 二人して橋を回り込むと、土手から河原へと降りていく。 佑太は視線を走らせ、二人のあとを追った。
佑太の視線が河原に届くと、そこには倒れた福本を見下ろす、四人の男女の姿があった。
〈四人? こいつら、グルだったのか!〉
四人とは、福本を橋から落とした二人と、絵里香を川へ投げ込んだ山下と野垣である。
その時、河原に倒れていた福本が薄目を開けた。 それに気付いた山下がしゃがんで福本の顔を覗く。 かすかに福本の口元が動いた。
「え、り、か」
佑太にはそう聴こえた。
〈他になにか……〉
佑太は福本の唇を凝視した。 しかし、それ以上、言葉は出てこなかった。 気付くと、福本は、薄目を開けたまま、身体の動きを止めていた。
〈死んだのか。 福本の最後の言葉は、やはり、絵里香さんの名前だった。 で、このあと、三人の武者の怨霊が出るのか?〉
佑太は、四人の立つ場所から北の方へ視線を移した。 目撃証言で怨霊が見えた方角である。 遠くに、街燈の灯りに照らされ、まだ車が行き交う五条大橋が見える。 佑太は、河原の暗がりの中に何か動くものがないか探った。 だが、何も現れない。 佑太は、再び、視線を河原の四人にもどした。
四人の傍には釣りで使うアイスボックスが二個置かれている。 山下が、そのひとつの取っ手をつかんで持ち上げ目配せすると、ひげ面の男はちょっと嫌な顔をした。 しかし、すぐに、諦めたような顔になり、残りのアイスボックスを持ち上げた。 その時、佑太はアイスボックスの中身がわかった。
二人の男は、アイスボックスを手に河原を北へ歩き、先ほど佑太が視線を送った場所で足を止めた。 男たちがアイスボックスを開き逆さにすると、何かが河原に転がり出た。 転がったのは、佑太の予想した通り、首と胴体が離れた三匹の猫の死体だったが、同時に赤黒いもやのようなものが噴き出ていた。
四人は、そのもやに気づかないようである。
もやは、最初は、男二人をゆっくりと包みこむようにたなびいていたが、まもなく、ひげ面の男の体内へ吸い込まれるように入っていった。
二人の男は、しばらく、渋い顔をして懐中電灯を手に、猫の死体を観察していたが、アイスボックスのふたを閉めると、再び、女二人が待つ場所へ戻った。
野垣良子が山下に訊いた。
「あの猫の死体さ、何かわけあんの? あんなむごたらしい殺し方してさ、猫に祟られそうじゃん、気持ち悪っ」
野垣は眉をひそめた。
「わけはあるんだろうけど……俺には分かんないな。 確かに残酷だけどさ、マスターからの指示だから、やらねーわけにはなあ。 さあ、仕事は済んだから、さっさと帰るぞ。 で、あんたらは残るんだろう?」
山下が、探るように、ひげ面の男に訊いた。
「えっ? ええ、僕らは警察に通報する仕事がありますから……なにしろ、第一発見者ですからね。 お宅らも、朝になったら、必ず、警察に連絡してくださいね、目撃者なんですから」
「もちろんだ。 あとは、マスターの指図通り、頼んだぞ」
「ええ、わかってます。 警察が来たら、お宅らは、明日、朝から仕事があるから、今夜は帰ったって、それから名前は聞いてないと、言っときますから」
「ああ、それでいい。 お互い、別々に証言して、それが一致する。 それで目撃証言は信頼性が増す、そういうことだったな、マスターの指示。 じゃあ、俺たちゃ、これで失礼する。 これでお別れだな。 怨霊の陰をちらつかせるの、忘れんなよ。……おっと、忘れてた。 ずらかる前に……」
そう言うと、山下は、福本の遺体のそばにしゃがみこんだ。
続く ⇒ http://shiratoriksecretroom.blog.so-net.ne.jp/2013-10-01-1
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