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地縛記憶2: 京都、地脈の乱れ(第50回) [ミステリー]

 だが、車から降りてきたのは、見知らぬ若い男女二人だった。

 二十代半ばと思える二人は、服装はカジュアルなもので、揃って眼鏡をかけている。 男は顔ひげをたくわえ、人相はほとんど判らない。 佑太は女を見た。

〈地味な女だ。髪も染めてないし、化粧もしてない〉

 二人は、黙って福本に近づく。 先に口を開いたのは福本の方である。

「あんたたちか、私のケータイにかけたんは?」

「はい、そうです。 貴方、福本洋平さんですね、急がんとあかんと思ったもんで。 これです、言付かったんは」

 顔ひげのある若い男は、内ポケットから茶色い封筒を取り出すと福本に渡した。

 福本は、封筒の中から折りたたまれた紙切れを抜き出し、広げて、それを読んだが、終わると浮かぬ顔になった。

「これを言付けたんは、どんな人でした?」

「言付けたんは……女連れの男の人でした。 僕らが車で、この橋の上を通りかかったら、手を上げて車を止めよるんですわ。 そいで、おたくのケータイの電話番号を書いたメモとその封筒を渡され、おたくに連絡してここまで来てもらい、封筒を手渡すよう頼まれたんです。 謝礼ももらいましたんで、断り切れずに引き受けたんです」

「その頼んだいう人は、そのあと、どうされたんですか?」

 福本は、訝しげに顔髭の男を見ながら訊いた。

「頼んだ人ですか? 頼んだ人は、一緒にいた女性と二人で、本願寺の方へ歩いて行かはりましたよ。 さて、これで、僕らの仕事は終わりですが……何か気になること、書いてあったんですか?」

 顔ひげの男が心配げに訊くので、福本は紙切れを見せた。

「何や、これは……『福本洋平殿、貴方の娘を、怨霊の生贄とすることが決まりました。 正面橋の北側から本日午前零時四十五分に河原を覗いてみなさい、貴方の娘の姿がそこに見えるはずです。 娘は貴方を待っています。 六条河原の主(ぬし)より』……六条河原の主ですか、けったいな文やな。 で、どうします、福本さん、まもなくですよ、零時四十五分いうたら……」

 ひげ面の男は、橋の欄干から身を乗り出して、薄暗い河原を覗きこんだ。

「何も見えへんな」

 ひげ面の男は言った。

「まだ、五分程、あるんやないの。 そやけど……怨霊の生贄ゆうて、今時、そんな話、聞いたことあらへんけどな、なんや、ほら話のような気いするな」

 今度は、女が橋下を覗きこむ。

「アラッ、あそこに誰か……」

 女の言葉に、福本がつられて橋下を覗いた。

「どこですか? 何も見えへんけど……」

「そっちじゃなくて、橋の真下です。ホラッ、あっこに」

 女が、身体を欄干から乗り出すようにして橋下を指差すと、福本も女の動きにつられたように身を乗り出して、橋下を覗き込んだ。
                                    
  続く ⇒ http://shiratoriksecretroom.blog.so-net.ne.jp/2013-09-30-1

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