地縛記憶2: 京都、地脈の乱れ(第49回) [ミステリー]
佑太が、視線を、橋から西に伸びる道路に移すと、遠くに黄色く光る二つの眼が見えた。
〈あれは、魔物? 怨霊か?〉
二つの光る眼は、徐々に大きさを増し、近づくにつれ、正体が見えてきた。
〈なんだ、あれは……車のライトじゃないか〉
一台のワゴンが、橋の上で止まる。
〈この車は……グレーのホンダエスティマ〉
佑太が車種を確認している間に、運転席と助手席のドアが開き、黒い人影が二つ降りたった。 運転席から一つ、そして、助手席からも。
二つの影は、車の後ろに回った。 すると、バックドアが開いた。
影の一つが何かを抱えた。 もう一つは周りを見回し、何か合図を送る。 合図を受けた影が車のわきから顔を出す。
〈男! アッ、あれは、映画村で殺された、山下昇じゃないか! ってことは……もう一つの影は、女……野垣良子だな、間違いない。 抱えているのは人のようだが……動かない。 死んでんのか? あれは、女、女だ! ……ということは、あれは、沢口絵里香か?〉
山下は、動かない女の身体を北側の欄干の上に運ぶ。 そして、一呼吸するや、橋の下へと放った。 一瞬の間(ま)、そして、ザブンと水音がした。
〈二人とも、黒い服だけど……あっ、あれは忍者ショ―で使ってた舞台衣装じゃないか……それで、真っ黒に〉
辺りに響いた水音が静まると、山下と野垣は、仕事が済んだのを確認するように顔を見合わせ、再び、車に乗り込んだ。 エンジンをかけたままになっていた車はすぐに発進し、佑太の身体を突き抜けて、豊国神社の方へと走り去る。
クルマのエンジン音が遠ざかる。 佑太は、ここで地縛記憶が途切れてしまうのかと思った。
確かに一瞬、視界は消えた。 だが、なぜか、すぐに夜の正面橋の風景が戻った。 同じ場所の同じ風景なのだが、どこか違う。 時間がだいぶ経過したのか、町の騒音も少ない。
橋の向こう側から誰かが歩いてくる。 男のようだ。 男は橋にさしかかる。 街燈の灯りに照らされ、顔が見えた。
〈福本、福本洋平じゃないか!〉
福本は、立ち止まると後ろを振り返る。 誰かと待ち合わせをしているのか、時計に目をやり落ち着きがない。 福本は、橋の欄干に身体を寄せると、五条大橋の方を見た。
しばらくは、その姿勢を保っていたが、橋の欄干ごしに下を一度覗くと向き直り、左右に眼をやる。 そして、今度は、背中を欄干につけ、ポケットから何かを取り出す。 取り出したのはスマホ。 福本はそれをしばらく操るが、エンジン音に気づき顔を上げる。 一台の車が速度を緩めながら近づき福本の前で止まった。
〈このワゴン、さっきのじゃないか……〉
佑太は、止まったクルマが、先程、山下と野垣を乗せて走り去ったワゴンであることに気づいた。
福本は警戒をみせ、スマホをポケットに戻すと、背筋を伸ばした。 福本の顔に緊張が走る。
佑太は、車から山下と野垣が降りてくるのを予期した。
続く ⇒ http://shiratoriksecretroom.blog.so-net.ne.jp/2013-09-29-1
〈あれは、魔物? 怨霊か?〉
二つの光る眼は、徐々に大きさを増し、近づくにつれ、正体が見えてきた。
〈なんだ、あれは……車のライトじゃないか〉
一台のワゴンが、橋の上で止まる。
〈この車は……グレーのホンダエスティマ〉
佑太が車種を確認している間に、運転席と助手席のドアが開き、黒い人影が二つ降りたった。 運転席から一つ、そして、助手席からも。
二つの影は、車の後ろに回った。 すると、バックドアが開いた。
影の一つが何かを抱えた。 もう一つは周りを見回し、何か合図を送る。 合図を受けた影が車のわきから顔を出す。
〈男! アッ、あれは、映画村で殺された、山下昇じゃないか! ってことは……もう一つの影は、女……野垣良子だな、間違いない。 抱えているのは人のようだが……動かない。 死んでんのか? あれは、女、女だ! ……ということは、あれは、沢口絵里香か?〉
山下は、動かない女の身体を北側の欄干の上に運ぶ。 そして、一呼吸するや、橋の下へと放った。 一瞬の間(ま)、そして、ザブンと水音がした。
〈二人とも、黒い服だけど……あっ、あれは忍者ショ―で使ってた舞台衣装じゃないか……それで、真っ黒に〉
辺りに響いた水音が静まると、山下と野垣は、仕事が済んだのを確認するように顔を見合わせ、再び、車に乗り込んだ。 エンジンをかけたままになっていた車はすぐに発進し、佑太の身体を突き抜けて、豊国神社の方へと走り去る。
クルマのエンジン音が遠ざかる。 佑太は、ここで地縛記憶が途切れてしまうのかと思った。
確かに一瞬、視界は消えた。 だが、なぜか、すぐに夜の正面橋の風景が戻った。 同じ場所の同じ風景なのだが、どこか違う。 時間がだいぶ経過したのか、町の騒音も少ない。
橋の向こう側から誰かが歩いてくる。 男のようだ。 男は橋にさしかかる。 街燈の灯りに照らされ、顔が見えた。
〈福本、福本洋平じゃないか!〉
福本は、立ち止まると後ろを振り返る。 誰かと待ち合わせをしているのか、時計に目をやり落ち着きがない。 福本は、橋の欄干に身体を寄せると、五条大橋の方を見た。
しばらくは、その姿勢を保っていたが、橋の欄干ごしに下を一度覗くと向き直り、左右に眼をやる。 そして、今度は、背中を欄干につけ、ポケットから何かを取り出す。 取り出したのはスマホ。 福本はそれをしばらく操るが、エンジン音に気づき顔を上げる。 一台の車が速度を緩めながら近づき福本の前で止まった。
〈このワゴン、さっきのじゃないか……〉
佑太は、止まったクルマが、先程、山下と野垣を乗せて走り去ったワゴンであることに気づいた。
福本は警戒をみせ、スマホをポケットに戻すと、背筋を伸ばした。 福本の顔に緊張が走る。
佑太は、車から山下と野垣が降りてくるのを予期した。
続く ⇒ http://shiratoriksecretroom.blog.so-net.ne.jp/2013-09-29-1
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