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地縛記憶2: 京都、地脈の乱れ(第48回) [ミステリー]

「雨乞い合戦、課長のおっしゃる通りでしたよ。 場所は当時の神泉苑。 東寺代表の弘法大師空海と西寺の代表守敏が、雨乞いの祈祷合戦、やってました。 そして、勝負は、東寺、空海の勝ち。 その結果、西寺は、その後、衰退の一途を辿ってしまった、そういうことです。 その後、雨乞いの祈祷のあった神泉苑は、勝った東寺の支配下に入っています。 今、西寺なんて見当たらないですからね、東寺は、今も、立派なまま残って。 まっ、その二つの寺の間にあった羅城門は、とっくに消え去ってますけどね」

「そうでしたか、雨乞い合戦に勝ったのは、あの弘法大師、空海だったのですね。 いや、どうも有難うございました」

 そう述べた佑太の脇で、杏子が満足げに頷いていた。

「安藤先生、正面橋には今から行ってみますか? もうそろそろ日が暮れますが……」

 毛利が、腕時計を見ながら訊いた。

「行きましょう。 今は、急いだ方がいいような気がするのです」

 佑太は、背中を何者かに押されているような気がしていた。

〈僕らに残された時間はそれほど多くはない。 今のままでは……犠牲者がまた出そうな気がする〉

「じゃあ、課長、今から行ってきます。 安藤先生のプロファイリングの結果は、またあとでご報告しますから……」

 毛利が桜井にそう告げると、桜井は、右手を挙げて応えていたが、何か思い出したような顔になった。

「安藤先生、そういえば、天気予報で、今夜から雨になる言うとりました。 よかったら、うちの傘、持って行きなはれ。 玄関に用意させましたさかい」

「有難うございます。 では」

 佑太、杏子、そして唐沢の三人は、毛利の後に続いて部屋を出た。 

 庁舎の玄関先には傘を持った女性警官と二台の車が待っていた。 佑太は、傘を受け取り、杏子と後ろの車に乗り込むと、毛利と唐沢を乗せた別な車が、先導するように走り出した。
 
 桜井が言った通り、空には雨含みの黒雲がかかり始めていた。

 正面橋を渡り切ったところで、佑太たちは車から降りた。 
 
 佑太は豊国神社を背にすると、鴨川にかかる小ぶりな橋を眺めた。 正面橋は、鴨川にかかる橋の中でもとりわけ貧相である。 その日は、通る人も車の数も少なく、黄昏時のためか空に立ち込めた黒雲のせいか、視界は悪かった。

〈さあ、いったい、何が見えるんだ? 〉

 佑太は意識を集中した。 すると、橋の向こうの光景が徐々に霞んでいく。

〈見えて来い、地縛記憶!〉

 佑太が意識を高めると、彼の視界から、霞んでいた景色が消え失せ、替わって、街灯に照らされた橋の欄干が浮かび上がってきた。
                                               
続く ⇒ http://shiratoriksecretroom.blog.so-net.ne.jp/2013-09-28-1

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