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地縛記憶2: 京都、地脈の乱れ(第47回) [ミステリー]

 桜井は、一瞬、躊躇したが、年季の入った金縁の老眼鏡をかけると、ポケットからやや大きめの手帳を取り出した。

 しばらくは、忙しくページをあちこちめくっていたが、その手が止まると、やおら口を開いた。

「ええっと……沢口絵里香は福本との食事を終えると、一度部屋へ上がってますな。 それが、午後七時三十分過ぎ。 これはホテルのフロントの者から証言がとれてます。 そのあと、部屋に上がってまもなくですが、外から部屋の絵里香に電話が入ってます。 これが七時四十分過ぎ。 フロントの交換は、電話の声は女だったと言うとります。 それから、その女には関西なまりはなかったとのことでした。 福元洋平の妻、福本孝子、これも、生まれも育ちも関東らしくて、関西なまりはあらへんのです。 私は、この女は、福本孝子や、そう思うとります。 話は戻りますが……電話がかかったあと、まもなく、八時ちょっと前ですが、絵里香はホテルを出てます。 そして、それっきり帰ってきーへんかった、そういうことになっとります。
 それとホテルのフロントに、福本洋平から電話が入ってますんや、十二時過ぎですが。 なんでも、絵里香のケータイにかけてもでーへんのやが、部屋に絵里香はおるのやろかいう電話やったそうです。 そいで、フロントから部屋の電話にかけてみたそうですが……絵里香は出なかった。 それで、福本には、八時前に絵里香はホテルからどこかへ出かけたっきり、まだ戻られてない、そう、伝えたそうです」

 話し終えると、桜井は手帳を閉じた。

「八時前に沢口絵里香さんは女に呼び出されて、ホテルから出た。 そして、二度とホテルには戻らなかった。 つまり、沢口絵里香は、ホテルから出ると、まもなくというか、数時間のうちに殺害された……ということですね」

 佑太は訊いた。

「そうなりまんな、死亡時刻が八時過ぎから十一時の間ということになっとりますから……」

「絵里香さんのケータイの通話履歴は、お調べになったんですか?」

「それが、ケータイが見つからんのです。 母親の沢口栄子さんに、娘のケータイの番号にかけてもろうたんですが、応答なしですわ。 犯人が持ち去って、どうかしたんですやろな」

「そうでしたか、絵里香さんのケータイは見つかりませんでしたか。 では、もう一人の正面橋事件の被害者、福本洋平さんの方の足取りは、分かってますか?」

 佑太に訊かれて、桜井は再び手帳を取り出した。

「ええっとな……福本洋平の方は、西都キャピタルホテルで絵里香と別れて、ホテルを出たあとは、行きつけの『田丸』という、山王町の飲み屋で十二時過ぎまで飲んどりますのや。 『田丸』のママの話によれば……確かに、十二時過ぎたころに福本のケータイにどこからか、連絡が入ったそうです。 そして、福本は、その直後に、店を出た、そう言うとりますな、ママは」

「福本さんのケータイの通話記録の方は、如何です?」

「そっちの方は、ケータイは害者のポケットに入っとりまして、証拠品として保管されてますが、記録もちゃんと残っとります。 ママの言うた時刻に、ちゃんと、着信が一通あったんが残ってます。 それから西都キャピタルホテルのフロントにも電話してましたな、さっき言うとったやつや、十二時過ぎに。 ホテル側の話とも、つじつまはおうとります」

「福本さんのケータイに十二時過ぎにかかったのは、どこからでした?」

「それが、ケータイやのうて、公衆電話でした、正面橋脇の……」

「で、そのあとの福本さんの足取りはどうなってますか?」

「それっきりですな。 おそらく、それからすぐに、正面橋へ行って、そこで転落。 そういうことでっしゃろ」

 桜井は、そのあとも、佑太の問いに次々と答えていったが、それがひと通り終わったころ毛利が戻ってきた。
                                  
  続く ⇒ http://shiratoriksecretroom.blog.so-net.ne.jp/2013-09-27-1


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