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地縛記憶2: 京都、地脈の乱れ(第45回) [ミステリー]

 桜井は視線を佑太に戻すと言った。

「安藤先生、事件が大きなもんになってきましたんで、毛利には映画村の事件を主に手掛けてもらい、正面橋事件の方は別なもんに任すことにしたんです。 で、正面橋の事件は、やっぱ、遺産が動機やと思いますのや。 福本洋平と娘の絵里香さんが死んで得するもんは誰か? 私は、これが鍵や思うてます。
 そいで、どう考えても、得するのは、福本洋平の妻の孝子ですな。 それに、目撃者の情報では……福本は転落する前に女と言い争っとった、とのことです。 どうでっしゃろ、福本孝子犯人説、いち押しですやろ。 私は、福本孝子がホンボシやないかと睨んでます。 毛利は、福本一郎氏の遺産狙いが動機やと言うとりましたが、一郎氏はまだ死んどらへん。 そやから、まだ遺産は発生してないんや。 発生したのは洋平の方の遺産です。 聞くところでは……保険金だけでも数億円あるらしいですわ。 息子や言うても福本財閥の御曹司や、全部合わせたら馬鹿にならん額や思いますで……絵里香さんが先に死んで、そっちの相続権は消滅。 ですから……遺産はすべて、妻の孝子と二人の子供へ行きます。 どうです、得したのは孝子ですやろ」

 桜井の表情は自信ありげだった。 彼は、正面橋事件の犯人は福本洋平の妻の孝子の線で捜査を指揮しているようである。

「毛利さんは、今朝は福本一族の中に犯人がいると思われていたようですが、やはり課長と同じで福本洋平さんの奥さんですか……それとも、他に誰か目星をつけておられたんですか?」

 佑太は毛利に訊いた。

「えっ、私ですか? 私は、福本洋平の姉妹、特に姉の恵美子と亭主の横山仁を疑っていたんです。 というのも、福本財閥の中核である福本産業の社長をしているのが……横山仁、副社長が恵美子でして、夫婦で財閥の資産管理も行っていましたから……おそらく財閥の資産に対しては執着が強いのではないかと。 洋平の妹三人のうち、上の妹二人はそれぞれそれなりのところに嫁いで、嫁ぎ先で生計を立ててうまくいってるようですし、末の妹は独身ですが、これはバイオリニストとして活動して、金には困ってません。 ですから……妹三人は、今回の事件には関係ないかと。
 それに、ある筋から聞いた情報でも、洋平は、日頃は教育学の権威、市長のアドバイザーで、地元の名士としてちやほやされる一方、財閥内の企業の運営にはほとんどタッチしてなかったそうです。 それで、いずれは財閥の跡取りと目されていたようですから……姉夫婦からすれば目障りな存在だったのではないかと」

 毛利は、部下と、今朝まで、福本家の周辺を洗って、一族の人間関係などを調べていたのである。

「先輩、いい線いってんじゃないすか。 なーんか、テレビドラマにでも、でてきそうな筋書きで面白いっすよ、ねえ、安藤先生」

 唐沢は言った。

「お前な、それ、褒めてるつもりか?」

 毛利は苦笑いをした。

「毛利警部、一度、正面橋でプロファイリングさせてもらえませんか? あの事件が今日の事件とつながってると思いますから……」

 佑太の言葉に、毛利の顔が引き締まった。

「やっていただけますか。 ぜひ、お願いします。 この事件、放っておくと、また新たな事件が、起きそうな、いやな予感がするのです」

「わかりました」

 佑太は答えたが、その時、広隆寺で秦河勝から聞いた聖徳太子のお告げのことを思い出した。
                                       
 続く ⇒ http://shiratoriksecretroom.blog.so-net.ne.jp/2013-09-25-1

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