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地縛記憶2: 京都、地脈の乱れ(第7回) [ミステリー]

「先輩、他に何かあるんですか?」

「実は、目撃者のカップルが、見たと言うんだ……あれを」

 毛利は思わせぶりに言った。

「あれって、何です?」

「亡霊だよ、武者姿の」

「武者姿の亡霊、ですか?」

「そうだ。カップルの中の一人の女がな、福本が息をひきとったあと、北の方、つまり五条大橋の方を振り返ると、突然、風が川上の方から吹いてきて、血の匂いがしてな、三人の武者姿の男たちが見えたというんだ」

「何かの見間違いか、錯覚じゃないんですか? それに、血の匂いだったら、死んだ福本の血の匂いじゃないすか」

「いや、四人全員が、風に乗って血の匂いがして、そのあと亡霊を見たと言ってんだ。 ほらっ、あそこ辺りだ、亡霊が立っていたのは」

「きゃあ!」

 美香が大声をあげて唐沢にしがみついていた。 唐沢はよろめいたが、なんとか踏みとどまった。 見ると美香の身体が小刻みに震えている。

「あのう、奥さん、どうかされましたか?」

 毛利が不思議なものでも見るような顔で訊いた。

「私……」

「先輩、すみません、うちのやつ、幽霊とか、おばけとか、姿の見えないものが、苦手なんです」

「そうか、黒帯の女性も、掴みどころがないやつは、投げ飛ばせんからな、アッハッハハ」

「先輩、その亡霊って、この六条河原で処刑された武将なんでしょうか?」

「まっ、幽霊の格好からすれば、そういうことになるのだろうが、俺は信じてないぞ。 カップルの女が何かを亡霊と見間違って、他の三人は集団心理で、見たような気になったんじゃないか、俺は、そう思うけどな」

「先輩は、現実主義者っすからね。でも、私は、亡霊っていうのも、ある種のロマン、と言いますか……そんなのも、あり、じゃないかと……」

「そうだよな、お前は昔からロマンチストだからな、顔の割に」

「先輩、顔の割には、ないっしょ。 これでも、私は、結構、もてるんですから……」

 唐沢はそう言ったあと、あわてて美香の顔を見た。

「お前と結婚してからはな……まじ、もてなくなってるよ」

「唐沢、お前、尻に敷かれてるな、ワッハッハハ」

 毛利は笑いながら、唐沢と美香の顔を見比べていた。


 二人の視線から逃れるように、唐沢はその場に座り込むと正面橋の方を睨んだ。

「おい、唐沢、お前、何やってんだ?」

 毛利が訊いた。唐沢はしゃがんだままの姿勢で答えた。

「いや、こうしてると、もしかしたら、事件の状況がつかめるんじゃないかと思って……」

「そんなことできるわけないだろう、ボケーっとした顔で眺めていたってさ」

「いや、そうじゃないっす。私には分かんないんですが……ある先生には、分かるんですよ」

 唐沢は、そう言うと立ち上がった。

「ある先生って、誰なんだ?」

 毛利は唐澤の言葉に興味をそそられたようだった。
                                                  
          続く ⇒ http://shiratoriksecretroom.blog.so-net.ne.jp/2013-08-18-1
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