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ゲームの効能(3) [人生]

 こんなことがあった。以前勤めていた病院でのことである。

 「先生、ここに来る途中の川ん中へ、車ごと飛び込もうかと思うことがあるとですよ」
午前の外来でのことである。そう言ったのは……ある神経難病の患者だが、その病気は、遺伝性の病気で、常染色体優性遺伝……だから、片親から受け継いだ病気である。

 その患者の場合、母親が同じ病気で、その母親は35歳で亡くなっていた。ぼやいた患者は、当時23歳で、高校卒業後発病し、症状は徐々に彼の行動に制限を課し始め、病院の廊下を歩く姿はぎこちなく、そろそろ車椅子が必要かなと思わせるような状況であった。

 彼は、母親の年齢での死を予期していたのである。それだけではない。死に至る過程、つまり、徐々に症状が進行し、まず、歩けなくなり……車椅子生活となり……そのうち、車椅子での移動にも他人の手を借りるようになり……ベッド上の生活へ……言葉でのコミュニケーションが出来なくなり……口からは食べられなくなり、管からの胃への栄養注入となり……10数年後に、ようやく死を迎える……そんな過程を想像して、冒頭の言葉を吐いたのである。

 それに対して、私は、準備していたわけではないが……ゲームをしながら思ったことを話していった。「人生もゲームでしょう。始まりがあって、終わりがある。どんなに成功しても、どんなに名声を博しても、ゲームが終ればすべて終了なんですよ。あの世があったとしても、持ってはいけないでしょう。それに、成功した人にも、人には言えない苦難や悲劇を背負っていることも多いんですよ。最後まで、ゲームをやりこみましょうよ。○○さんの病気は遺伝病じゃないですか。だから、○○さんの人生ゲームは、その遺伝病を持った人物が主役のゲームでしょう。最後まで、そのゲームをやるしかないですよ。そして、最後に、ああ、いい人生だったと思って、ゲームに勝ちましょうよ。僕も、そう思って人生送っていますよ」
 
 そんなことを私は言ったと記憶している。

 それに対して、○○さんは、にやっと笑い、「そうですね」そう答えてくれた。
 その後、彼から二度と同じ言葉を聞くことはなかった。

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